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旅館・ホテル用の浴衣の生地

時々問い合わせをいただく問題。

「浴衣を作りたいので、どんな生地があるのかサンプルを送ってください。」

 

先に言っちゃいます。

旅館・ホテル用の浴衣の定番の生地は、平織りしかありません。

 

綿生地、TC生地など素材の違いはあります。

糸番手も、30/20や20/20などがあります。

けど希望されているような、紬のような変わり織の生地はありません。

 

何故かというと、

旅館・ホテル用の浴衣は、毎日洗濯して使うことが前提だから です。

 

 

本仕立て浴衣用 変わり織り生地
本仕立て浴衣用 変わり織り生地
本仕立て浴衣用 変わり織り生地
本仕立て浴衣用 変わり織り生地
本仕立て浴衣用 変わり織り生地
本仕立て浴衣用 変わり織り生地
本仕立て浴衣用 変わり織り生地
本仕立て浴衣用 変わり織り生地

上記の写真は、「本仕立て浴衣用 変わり織り生地」です。

でも定番ではありません。

 

本来の浴衣メーカーは、出来上がりの浴衣をイメージしてオリジナルで生地を織るところから始めます。

そしてプリントなのか注染なのか、それも鑑みて生地を織ります。

ちなみに浴衣メーカーの中には、浴衣のデザイナーも含まれます。

 

よく「自分が考えたオリジナルの浴衣を作りたいんですが・・・」みたいな方がいらっしゃいますが、本来でしたら染めなのか捺染なのか、出来上がりの風合いはどの辺りにしたいのかを考えて生地の指定を出します。

決して「生地を選びたいので生地見本を送ってください。」と言いません。

「だって生地は良くわからないので教えてほしいんです。」は、自分の未熟さを製造する側おんぶに抱っこしてほしいと言っているわけで、製造側から見るときちんと指示してくれない上に手の内を見せろと言われているようで腹立たしいと感じます。

気難しい人なら、「勉強してからまた連絡してね。」で終わってしまいます。

 

 

一般向けの本仕立の浴衣ですら色々と問題があるのに、扱われ方がもっと厳しい旅館・ホテル用の浴衣は言うまでもありません。

 

 

本仕立て浴衣用 変わり織り生地
本仕立て浴衣用 変わり織り生地

暴徒でも書いたように、旅館・ホテル用の浴衣は毎日洗濯をして使われます。

どのような洗濯をして、どのような機械で仕上げられるか、それを把握していないと浴衣は作れません。

 

もちろん上記のような変わり織生地の浴衣を使うこともできます。

でもその場合、通常の平織り生地の浴衣と洗濯の工程が変わってくる場合があります。

(洗濯を担当するリネンサプライによります)

洗濯の工程が変わってくる場合、洗濯料も変わります。

リネンサプライの了解を経てから生地を選ぶ必要があります。

 

また洗濯回数も減る場合があります。

通常日本製の旅館・ホテル用の浴衣は、最低100回洗濯できることを目指していますが、変わり織の生地で50回とか30回しか洗濯できない場合もあります。

洗濯回数が減るということは、補充がたくさん必要ということです。

旅館・ホテル用の浴衣は、製造する枚数によって価格は異なりますが、補充の場合は最初に投入される数量より少ない場合が多いため価価格は高めとなります。

毎回、毎回高い浴衣を補充することになりますが、それでも良いのでしょうか?

 

 

旅館・ホテル用の浴衣生地の拡大写真
旅館・ホテル用の浴衣生地の拡大写真

結局のところ平織り生地を使うのが、一番コストが掛からなかったりします。

ただそれじゃあ他のトコロとの区別化ができないということで、生地目のようなプリントをするわけです。

上記の写真は「紬調」のプリントです。

しかも今のリネンサプライは、平織り生地に対応した洗濯方法、洗剤を使っているため、平織り生地が一番キレイに洗えたりします。

 

 

「でも昔の旅館やホテルは、いろいろな風合いの生地を使っていたよ。」

確かに、紬だったり絣生地を使ったりしていました。

ですが、リネンサプライのレンタル品の場合が多くて、リネンサプライが洗濯方法を自ら変えたりその分高めのリネン料をとっていたりしていました。

 

洗濯する側が納得して変わり織り生地の浴衣を使う場合は問題ありません。

旅館・ホテル側が浴衣を用意する場合も、リネンサプライ側が「この生地は耐久性がないのですぐに補充してください」「この生地は耐久性がないので洗濯代は高くなります」など承知していれば問題ありません。

で、そこまで確認とるのは浴衣のデザイナーではなくて旅館・ホテルのオーナーの権限になってきます。

 

最近弊社に問い合わせしてくるデザイナーの多くが「風合いを見たいので生地見本送ってください」と連絡してきますが、旅館・ホテル用の浴衣は、見た目だけの問題ではないということを承知してほしいと思います。