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相撲の浴衣反物

相撲用の浴衣反物の話が出てくる時期になりました。

 

ここ数年の傾向として、生地価格の上昇、プリント工賃の上昇が顕著になっているにも関わらず、価格の安い業者が出てきています。

自分も真面目な方なので、「あれ?なんでそんなに安く出来るんだろう」と非常に不思議に思い、色々と当たってみたりします。

だって浴衣反物の生地って国内で織っているし、その織元だって限られます。糸は輸入になりますので、糸価格はほぼ同じように値上がりしています。工場で働く人の最低賃金も上がっているし、どうにも安く出来る要素がありません。

 

ホント、とても不思議です。

 

 

弊社で作る「相撲用の浴衣反物」は、中熨斗にして包装紙にて梱包したもの。

この反物は、お世話になった方々へのご挨拶に配られると聞いています。なので納品後にすぐに配れるような形に仕上げております。

 

贈答用という使用方法として反物の不良があってはいけないため、普通の浴衣生地よりも慎重に加工されます。

でも実際はどうしても生地不良やプリントミスが出てしまいますので、注文いただいた反数よりも若干少なめに上がってきます。

不良率は、約5%くらいでしょうか。

 

 

これが一般的に仕立てて出荷する浴衣でしたら、反物代はもっと安くなります。

多少の生地やプリントの不良だったら細かな部品として使うようにしていますので、相撲用の反物ほど気を使うことはありません。

 

「でもそれってお店で一般に販売している浴衣の反物だって相撲用と同じくらい気を使って作っているんじゃないの?」

一般用販売用の浴衣反物は、やはり個人のお客様なのでとても気を使って作られます。

が、相撲用の浴衣反物ほど安くありません。きちんと品質に見合った価格で販売されています。

 

相撲用の浴衣反物は、本当に品質と価格が見合わないほどギュウギュウに詰めてきます。

 

 

浴衣に使う反物って、キバタで織り上げ生地にした後に漂白します。

その漂白工程を「晒し」といいます。

 

上の写真の容器に生地を詰め、水と薬品を入れて温度をかけて約48時間。

この晒工程を念入りに行うことで生地の表面のゴミやホコリがとれ、また織った時にかかった生地のストレスも取れて加工しやすい生地になります。通常の浴衣反物ですと、この「晒し」加工は1回ですが、相撲用の反物は「二回晒し」ます。

二回晒すことできれいにプリントが出来るようになります。

当然晒しの加工賃は二倍になりますが、やはり出来上がりを考えるとこの工程は外せません。

 

 

弊社で行うプリントは、主にロータリースクリーンを使ったプリントです。

 

以前は「金属ロール」型を使ったプリントでした。金属ロールはプリント代が安いのですが、型代が高くなります。また円筒形の金属型を使うのですが、その円周が短いため相撲用で好まれる大柄のデザインには不向きとなります。

もちろん、時と場合によっては「金属ロール」型でのプリントをオススメする場合もあります。

小さいモチーフが連続するようなデザインで、白地に1色、反数が500反以上あれば、総合的な金額がロータリースクリーンよりも安くなります。

 

このロータリースクリーンでのプリントを行う前に、「二回晒し」した生地をさらに掃除します。

これで生地に残ったゴミやホコリを最終的に取り除き、また生地の折れ曲がりも修正します。

その後に、ようやくプリントに入ります。

 

でも、できあがってみると生地やプリント不良が出てしまいます。

手をかければかけるほど不良率は少なくなりますが、その分価格も上がってしまうというところで、今はこのやり方が一番品質と価格のバランスが取れていると思います。

 

 

尚、弊社で使っている生地の巾は約39cm。

30/30特岡のキングサイズの生地です。

当初、参考にと預かった生地がこのサイズでした。

 

一般用の注染浴衣の生地は、約38cm。それより1cm幅広の生地です。

「1cmくらい変わらないでしょ」と言いますが、浴衣に仕立てた時は背中は二枚横に並べます。

1cm幅広ということは背中で2cm。脇下で前と後ろをつなぎますと約4cm。

人間の身体の周囲がどのくらいかと考えると、4cmの幅広ってけっこう大きいものだとわかります。

 

 

と、こんな感じで「相撲用の浴衣反物」を弊社では仕上げています。

 

最初に言ったとおり、業者が安くしようとするとどこかの工程を省くしかありません。

ちょっと耳に挟んだ噂ですと、不良品が1/3くらいとか。でも「それってそういうものだから」と押し通してしまうとか。

変な反物もらったら悪い印象しか無いと思うのですが、やはり価格に惹かれる人が多いということでしょうか。

 

でも弊社としては今もこれからもきちんとした反物を作っていくつもりです。