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問屋社長の話 -絣の話-

先日東尾張の繊維問屋さんにお邪魔した時に聞いた話です。

繊維問屋と言っても、社内に織機もあり裁断機、ミシンもあり、サンプル程度なら自社で生地を織り仕立ててしまうという何でもできる会社です。社長一人でやっていて、かなり高齢ですがまだまだ意欲的に仕事をしており、お邪魔して話をすると昔の繊維業界のことを色々と教えてくれます。

 

 

 

「お、絣生地を持ってきたんだね。この絣生地、良い生地だね。今も織っている所あるの?」

 

 -いやぁ、お客様から預かってきた生地なんです。かなり前に仕入れしたらしく、今回手に入らなくなったみたいで・・・

 

「そうか、この生地は20番手を双糸にして織っているから厚みがあって丈夫なんだよ。今、こうゆう生地を織るところところは見なくなったからねぇ。」

 

 

「昔、ウールの絣が流行ってね、ウールといえばこの辺り(一宮から岐阜周辺)が産地じゃないか。でウールの絣をみんなでよく織っていたんだけど、それに浜松の方も目をつけて浜松でも織るようになったんだよ。」

 

 -浜松って、今絣を織れないじゃないですが、技術的に難しくてできないって。

 

「今の浜松は無理だけど、昔はナガレの技術者っていうか地元で問題を起こしたヤツが他の産地に行って色々な技術を教えてそこでまた暮らしていく、なんてことがよくあったんだよ。綿の機械をちょっといじってウールの絣を作ったんだけど、綿は収縮しないけどウールは収縮するだろ。で結構簡単に作ることができたから、浜松でも盛んにウールの絣を織っていったんだよ。絣って糸を先染めして、経糸・緯糸の白い染まっていない部分を合わせて模様を作るだろ。」

 

 -そうですね。その糸を合わせるのが難しくて浜松ではできないと・・・

 

「その頃は全部機械じゃなくて、機械だけど半分手織りみたいにして糸を合わせていったんだ。ただ途中で糸が切れると、一送り分戻らなきゃいけない。糸は問屋から支給されているから余分な糸が無い。切れた糸を結び直して、送り部分まで戻って織り直す。いくら簡単だと言っても今の縦縞みたいにガチャガチャ織れるわけじゃない。」

 

 

「浜松の商売って、他所はいくらで出てますか?ウチはそれより安くしますよ、みたいな売り方するでしょ。それで絣もどんどん安くなっちゃって、本当なら1本1本柄を合わせていかなきゃいけないんだけど2本ずつ合わせるようにするようになったんだよ。でももっともっと安く安くって言って、双糸で織っていたのを単糸にしてね。」

 

 -単糸にすれば確かに糸の量が減りますよね。でも品質が落ちますよね。

 

「品質落ちたって買う人はわかっている人ばかりじゃないだろ。ウチは単糸にしろ、って言われた時に嫌になってやめちゃったけどね、その後は経糸をレーヨンにしたりと、とにかく安く安くしていったわけ。」

 

 -そんな事したら、本来の絣の産地はたまったもんじゃないでしょ。

 

「そう、いろいろな産地はどんどん商売できなくなっちゃった。備前絣とか浜松に潰されちゃったね。それに京都や東京の市場もおかしくなってね。」

 

 -浜松のバッタモンが席巻していったんだ・・・

 

「そうなんだよ。そしたら今度は白地のウール生地の注文がどんどん増えて、月に200反とか出ていくようになって・・・」

 

 -え?白生地をどうするんですか?

 

「絣の柄をプリントするんだよ。そうすればもっと安くできるだろ。」

 

 

 -え、それって「籠付」ってヤツじゃないですか?ちょっと前に浜松の博物館で「浜松にはこんなに素晴らしい技術があるんです!」って言って展示していたもの。

 

「何!?浜松の博物館でそんな事やってたの!? そう絣柄をプリントするもの。プリントした生地見たけど本当にわからないね。本物そっくり。近くでみないとわからない。」

 

 -そうそう、僕も博物館で見ましたが、こんなに精巧な偽物作ったら本物が困っちゃう・・・

 

「たしかその頃の相場で、絣生地の1/5くらいだったかな、プリントの生地が。」

 

 -これだけ精巧な偽物が出回ると産地は本当に大打撃でしょ。

 

「産地もそうだけど、浜松でも絣を織らなくなっちゃった。当然この辺(東尾張)でも織らなくなっちゃった。今あらためて織ってみようか、なんて言ってももう織れない。」

 

 -じゃあ昔を知っている人からすると、浜松って相当恨まれてますね。

 

「そうりゃそうだよ、やり方がえげつなかったもん。特に○○や○○○○、○○○なんか、酷くてね。」

 

 -○○や○○○○、○○○って、今でもあるあそこですか?

 

「そうそう、そこだよ。最初は良い顔して産地に入り込んでいくわけ。である程度入り込んだら事業を大きくしようと持ちかけて資金を援助して・・・」

 

 -資金を掴まれたらもう言うこと聞くしか無い。そういえば今でもそんな話聞きますね。

 

「今でもやっているんだ! そう資金握ったら思い通りに生産させて旨味を吸い取って、旨味が無くなったらさっと手を引く。そうするといきなり手を引かれた産地はどうにもできなくなっちゃう。で産地が潰れてしまう・・・」

 

 -怖いなぁ。でもそれって浜松の業者だけですか?外でもやってたんじゃないんですか?

 

「そりゃあ浜松だけってこと無いけど、浜松の会社は特にひどかったね。」

 

 -じゃあ絣の生産が少なくなったのは浜松が大きく関わっているんですね。

 

「そうだね。他の産地に行って”浜松から来ました”なんて言わない方が良いね。」

 

 

実際に織物の最前線で仕事をしてきた方の話は、とても勉強になります。

実際の話しでは、絣の糸の染め方、経糸の組み方、など技術的な話もたくさん聞くことができました。

 

高齢者の多い繊維業界ですが、多分今現役で仕事をしている方の中でもかなり高齢な方になると思います。

今お元気なうちにもっといろいろな話を聞いて見たいと思っております。