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旅館浴衣の仕立て

浴衣というのは日本の伝統的な衣服であり、旅館浴衣と言えど本来の本仕立ての浴衣が基本となっています。

 

ということは誰もが知っていることだとばかり思っていたら、ちょっと違うようで・・・

 

「オタクの旅館浴衣を買ったら敷き当てがついていた。」というクレームが入りました。

敷き当てが付いていないというクレームならまだ判りそうな事ですが、敷き当てが付いているでクレームになるなんて、今の日本人は本当に浴衣や着物とは縁のない生活となってしまったのだと本気で悲しくなります。

 (しかも、旅館浴衣には普通敷き当てが付いていない物だ、そうで・・・)

 

 

旅館やホテルなどで使われる旅館浴衣が出来たのは、昭和30年代。

浜松市の縫製屋が考え出しました。

 

本仕立ての襟を詰め、オクミの巾を狭くし縫製の合わせを少なく、袖は筒袖に、身八つ口は無くして代わりに力布を。

各パーツを見直した結果、要尺が少なくなり、本来1反で1枚換算の要尺だったのが10反で12枚前後出来るようになり、その分単価も下がり、日本中の旅館浴衣がこの仕立てに代わっていきました。

 

ただ仕立ては変わっても、使う生地は今まで通りの小巾生地になります。

そのため、背中部分には二枚の生地が繋げられ、内側には肩当て、敷き当てが付けられました。

 

 

旅館浴衣は、不特定多数の人が着て、毎日洗濯をして使われるものです。

そのため本仕立ての浴衣とは、ところどころ違った仕立てになっています。

 

脇の力布、肩当て、敷き当て、これらは力が入る部分への補強です。

肩当て、敷き当てには、擦り切れ防止の意味もあります。

 

この肩当て、敷き当ては、浴衣生地と同じ”共布”を使う場合と、晒生地を使う場合があります。

この時の晒生地は、文規格(11号)の晒を使います。

旅館浴衣は価格も厳しい浴衣ですので、文規格の晒を使うのは文規格が一番安い晒だからです。

 

繰り返し洗濯をすると生地は縮みます。

肩当て敷き当てを浴衣と同じ生地にすると、洗濯の時の収縮率も同じですのでシワが寄りにくく綺麗な仕上げになります。

ですが肩当てを共布にするとサイズネームが見にくかったり、洗濯後の仕上げの時に裏表がわかりにくいと言うことがあり、「肩当ては晒、敷き当ては共布」という仕様にするところが多いようです。

 

 

 

最近、小巾生地の生産量が少なくなり旅館の浴衣も広巾生地を使うことが多くなってきました。

広巾生地ですと背縫いがなく作ることが出来ます(本来は背縫いは浴衣の骨であり、あると着姿がきれいになるのですが)

 

小巾生地のように二枚横につなげている時は、敷きあてを付ける部分の印もつけやすく、真っ直ぐにつけることが出来ました。

ですが広巾生地の場合は印をつけにくく、そのため敷き当てを付けても曲がって付けられていることも出てきました。

となると、じゃあいっそのこと敷き当て無しでも良いだろうと、しかも海外で作っている場合は敷き当ての意味もわからず「何?このパーツ?」となってしまいます。

という理由で旅館浴衣に敷き当てが無いものがあります。

 

もちろん広巾生地でもきれいに敷き当てを付けてくれるところもあります。

弊社がお願いしている縫製屋さんは、真っ直ぐにキレイに敷き当てを付けてくれます。

 

 

要は、下手な縫製屋だと敷き当てを付けられないけど、上手な縫製屋だと敷き当てをつけられる、ちょっと極論ですが概ねこんな感じです。(縫製の仕様がない場合です)

 

 

実際、浴衣を手掛ける所の人でも浴衣を持っていて浴衣を着られる人も少なくなってきました。

冒頭にも書きましたが、基本は本仕立ての浴衣です。

それぞれのパーツに意味があります。

浴衣や着物を着ないと、パーツや仕立ての意味はわかりません。

 

「旅館浴衣には敷き当てがないのが普通」、日本人がそんな事言ってくる時代になってしまったことが本当に残念です。