時々ですが、アパレルメーカーから旅館・ホテルで使われる業務用の浴衣を作りたいのですが、との問い合わせをいただきます。
旅館・ホテルが新しい感覚の浴衣を、と望んでいる場合もありますし、アパレルメーカーが旅館・ホテル業界に入り込もうと考えている場合もあります。
ですが、大体の場合、うまくいきません。
旅館・ホテルで使われている浴衣と言えば、白地に紺色の浴衣が一番頭に浮かびやすいと思います。
「白地に紺色の浴衣ばかりあるのなら、もっと新しいデザインの浴衣を作れば人気がでるのではないか?」
良く耳にするのがこのような言葉です。
本来、旅館浴衣に紺色が多いのは、屋内で着るもの(日光の下ではない、薄暗い)であり、そのような状況で肌の黄色い、髪の黒い、目の黒い人種が、一番顔が映えるのが紺色であるという理由と聞いたことがあります。
また、染料で染めた時に一番耐久性があるのが紺色。安定して色が出せるのが紺色。
様々な理由で紺色の浴衣が、旅館・ホテル用の寝間着浴衣として主に使われてきたわけです。
「旅館浴衣って紺色ばかりだから、もっとカラフルにしよう。」
けっこう簡単に考える人が多いのですが、アパレル衣料と違い、旅館浴衣は老若男女、太い人から細い人、背の高い人から低い人、どんな人が着ても似合うような柄でなければいけません。
若い女の人が似合う柄で、年寄りの背の低い男の方が似合うのか、そこまで考えないといけません。
また不特定多数の人が肌に直接着るものですので、毎日しっかりと洗濯をして提供されます。
激しい業務用の洗濯に耐えられるプリント、仕立でないといけません。
旅館・ホテルにとって、または浴衣をレンタルしているクリーニング屋さんにとって、「浴衣(寝巻き用)」は消耗品です。
帳簿の科目が”消耗品”として記載されるものです。
できるだけ長く使えるような物でなければいけません。
この「耐久性がある」事が、とても重要で、実は縫製自体はそれほど問題にされていません。
ざっくりとした話、裾の方で糸目が外れていても、三ツ巻がよじれていても全く問題ではありません。
生地の端のところで色むらが有っても大丈夫。
着心地、耐久性が落ちないのなら、不具合として問題にされることはありません。
よっほど酷い糸ハズレなどは、やはり耐久性に問題が出るため作り直す必要がありますが、上記くらいでしたら問題にはなりません。
が、ですが、上記のような不具合はアパレル衣料にとっては不良品扱いです。
アパレル衣料は、個人が着ることを対象としているのですから、糸が外れていたり、糸が出ていたら不良というのはわかります。
僕だって買ってきた服がこのようなものだったら、返品・交換します。
アパレル系の会社が旅館浴衣を作りたい、と言ってきて、弊社が納品した場合、ほぼ100%上記のような不良で返品となります。
旅館・ホテルに納めても問題なく使っていただいているのに、アパレルが間に入るだけで返品の山ができます。
「弊社がやるからには、それなりの商品にしないと!」
よく聞く言葉です。
でもそれは自己満足、プライドの部分です。
やはり一番は、浴衣を着るお客様、浴衣を提供する旅館・ホテルの満足度です。
満足度は、もちろん価格も含めての話。
弊社は、本仕立ての浴衣も制作しています。
本仕立ての浴衣の場合は、個人のお客様に使っていただくものですので、アパレル基準で作ります。
旅館浴衣の場合は、業務用の業界基準で作ります。
ですので出来上がりの品質も業界基準です。
要は、適所適材。
使い方によって、その品質基準が異なってくることを頭に入れて作りましょう、ということです。
それぞれの基準がわからずに作られた商品では仕方ありません。