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2000円台の浴衣


「1000円とか2000円くらいでかまわないので、オリジナルの浴衣を作りたいんだけど。」

 

 年に数回ある問い合わせです。

1000円や2000円の浴衣、これって数年前のイオンやイトーヨーカドーなどの大手で出していた格安浴衣のコトだと思います。更に今でもネットショップなどで”格安浴衣”と銘打って販売されている浴衣の影響だと感じます。

「格安浴衣セット」のおかげで浴衣本体の価格が下に設定され、本来の価値以下に市場価格が設定されてしまったことは大変遺憾な状況です。(浴衣には帯が必ずついてくるもの、という認識にもなったことも遺憾と感じます)

 

 はっきり言って、そんなに安く浴衣は作れません。いや作れますが、その格安浴衣を作っている大手と同じ方法でしたら、作ることはできます。つまり枚数は1万枚、中国で製造、納期は1年かけて、と言った条件になってきます。

大体オリジナル浴衣を希望される方の多くは数十枚であり、たかだかその料の浴衣で、1000円、2000円の価格にしようというのは、無理な話です。

 

 浴衣を1枚縫製する、これってけっこう大変な作業です。想像してみてください。生地を裁断して、ミシンで縫い合わせ、場所によっては手縫いで仕上げる。全ての作業を終えて完成させるのに、1日?2日?3日・・・東京の最低賃金が、時給950円くらいでしょうか。もし1日で仕上げたとして、8時間かかった:950円X8h=7600円。すでに希望されている浴衣の代金の数倍になっています。さらにこれに生地代、染代がかかるわけですから、とても無理。

じゃあ最低賃金のもっと安い海外で作れば、と言われますが、運賃が高い。船?飛行機?大手企業のようにコンテナ1箱あれば、1枚あたりの負担額は小さくなりますが、そんな数量希望される方はそういません。

 

 個人の和裁士さんに浴衣をお願いした場合、大体ですが1枚15,000円~20,000円かかります。浴衣を縫える能力のある方は、格安浴衣に携わらなくてももっと稼げる環境があるのです。そんな環境があるのに、なんでわざわざ格安浴衣に携わらなくてはいけないのか。普通に考えてそのような仕事は断ります。

 常々思うのですが、格安浴衣が出てきて浴衣の価格破壊が起こり、その結果浴衣業界の衰退が始まったのではないでしょうか。格安浴衣を販売し始めた企業は、浴衣以外にもアパレル製品を取り扱っています。その他のアパレル用品の一つとして浴衣を展開し、制作し、販売したと思います。それはアパレル企業の戦略として何も避難されることではありません。でもそれを見た浴衣業界が、後に続けとばかりに格安浴衣を販売し始めたのが問題と思います。

 

 繊維業界の風習の一つに、常に二番手でいろ、というのがあります。要は他の会社があたった商品を模倣して、同じような商品を安く販売して利益を出す、といった事です。(特に浜松市の会社はこの傾向が強い) 安い浴衣が売れたとなれば、我先に安く浴衣を作ってみる、他の会社よりも1円でも安く作る。そのためには安い生地、安い人件費の場所で作る。品質?現代の日本で浴衣の品質が分かる人がどのくらいいる?とにかく安く安く作って売りさばこう、こんなコト、まっとうな結果が出るはずがありません。

 

 格安浴衣は、ポリエステル生地、もしくは化繊混紡生地にプリントをして作られます。浴衣を着たがる若い女性は、やはり地味より派手が好き。濃い地色に生地をプリントした浴衣が好まれます。

 結果、化繊生地にべったりとプリントがのった浴衣となり、そりゃあ通気性もなにもあったものじゃない。ビニールシートを体に巻き付けたような物で、そんな物を夏の暑い時に着たときには暑くて暑くて、それこそ修行しているようなもの。で、「浴衣って暑くて大変だね」となれば次からは着ません。

 目先の需要は満たしても先の需要はなくなります。本来、浴衣は風が通って涼しいもの。けど一度暑い思いをした人は、次も着ようと進んでは思わないでしょう。格安浴衣は格安浴衣、本来の浴衣はこうゆうもの、としっかりとブレずに浴衣を業界から出していれば、浴衣本来の姿はブレなかったと思います。

 

 今若い人に着物を着る人が徐々に増えてきて、その人達は色々なデザインの浴衣をお誂えして着出しています。それを支えているのは若い呉服屋さんたちだったりします。川下の販売店が本来の浴衣を支えている状況です。川下が頑張っているのに、川上が未だにやすさにこだわっているのは、おかしな話です。今後の浴衣業界を支えていくためにも、川上も川下も一緒になって本来の姿の浴衣を作っていくべきだと思います。

 弊社は、オリジナル浴衣の専門店です。一般販売する浴衣ではなく、企業やイベント、旅館・ホテルなどで使われる浴衣を受注生産しています。いわば浴衣業界の異端に位置する会社ですが、浴衣への愛着は人一倍あると自負しています。

 1000円台、2000円台の浴衣に対応すること、これは今後も浴衣を作っていくことを考えた場合に手を出すべきではないと考えます。やはりオリジナルの浴衣とは言え、きちんと製造工賃をいただき、その浴衣に関わる人がみんな笑顔になれるような物を作らなければいけません。浴衣は本来日本独自の衣類であるにも関わらす、とても誤解されている衣類となっています。ですのできちんとした知識と価格で、これからも浴衣を後世に引き続けていきたいと思っています。