「ウール100%の生地の茶羽織半天は扱っておりますか?」
もちろん扱っております、と答えたのはいいのですが、お問い合わせいただいたのは夏真っ盛り。
旅館やホテルなどで使われる業務用の茶羽織は、冬に向けて生地を生産していきます。
たくさんの枚数だと生地在庫が間に合うかな?
「枚数ですか?20枚くらいなんですが・・・・少なすぎます?」
いえいえ、違います。生地の在庫を調べるためです。
電話を置いた後、早速生地の確認です。
業務用の茶羽織生地と言えば、愛知県一宮市。
電話で生地在庫の確認と、柄サンプルを送ってくれるようお願いします。
「えっ、ウール100%!?無いよ。在庫無し。だって在庫していても注文ないからね。」
!!!!いやいや、無地も縞柄も無いんですか?
「無いと思うけど、うーん・・・・・・、あ、一つあるかも、ちょっと待ってて。」
しばらくしてから電話がありました。
「厚手のウール100%のスーツ生地の在庫が一つだけあったよ。色は紺。20枚分とれるくらいの量もあった。」
はあ、良かった。でも一種類だけではお客様の希望にこたえられないかも・・・
と言うわけで、「ウール100%」「ウール80%、ポリエステル20%」「ウール50%、ポリエステル50%」の紺系統の生地と仕立て上がりの現物をお送りする事にしました。
ウール80%、ポリエステル20%
仕立て上がりの現物品
「ありがとうございます。生地と現物が到着しました。ウール100%と言っても、薄手なんですね。
あと現物もありましたが、これは仕立て見本ですか?」
ウール100%と言っても、スーツ生地なので薄手になっています。でもしっかりと温かいですよ。それに他の生地より密度を高くして織りこんでいますので丈夫です。
あと業務用の茶羽織は、あまりサイズを作りません。だいたいフリーサイズで作ります。
お送りした現物は、ごく一般的なフリーサイズの仕立てになります。
「わかりました、少し考えさせてください。あ、それと納期も教えてください。」
納期ですか。逆にいつまでに欲しいんですか?
「できれば二週間後までに。」
!では今日明日中に御返事いただければ、なんとか頑張って作ります。
二週間後って・・・でも今は夏真っ盛り。
茶羽織や陣羽織を縫製するところは空いているはず(寒い時期だと混んでいます。)
話を聞くと、改装オープンとのことで、これは何とかしなければいけません。
翌日、お客様から連絡がありました。
「ウール100%でお願いします。」
ありがとうございます!
「お借りした現物と生地は、今日お返しするよう発送します。それと詳しい納期がわかりましたら、連絡を下さい。」
良かった、早く決断してくださいました。
後はひたすら作るだけです。
とにかくオープンまでに間に合わせようと、縫製屋さんが頑張ってくれました。
その結果、出来上がってきたのは納品予定日の3日前!なんと10日で上げてくれました。
早速お客様にお送りしました。
お客様もびっくり!でもそれは嬉しいびっくり。
そのびっくりしていただけるのが、こちらも一番うれしいところです。
出来上がった製品は、いくつもの業務用の茶羽織を見てきましたが、本当にほれぼれする物・・・
良い生地を使うとここまで出来上がりが違うんだ。
張りのはる質感が、とても高級感のある空気を醸し出しています。
こんな良い物を作れたのは、製造に携わった者として本当にうれしく思います。
後でお客様に聞いたのですが、実は他にも何社か問合せをしていて、ウール生地を持っている所は一つもなかったそうです。逆にウールでは無く、ポリエステル生地を薦められたそうでした。
業務用の茶羽織半天に使われる生地は、取扱い、汚れにくさ、耐久性を考えるとウールが一番だと思います。
でもウール100%は高価なため、だんだん廃れているのが現状です。
正直、少し寂しい感じを受けました。
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